生きる。

 それは「無」の境地を思わせる舞姿でした。
 先日、舞台写真の展覧会会場で出会ったモダンダンサー・アキコ カンダさんの舞姿の写真を前に、暫したたずんで見入っておりました。

 写真のキャプションには死の12日前の舞姿とありました。
 入院先の病院から駆け付け、舞台に上がった姿は全てをはぎ取り、観客ひとり一人に向かって生きることの意味を問いかけているようにも思われます。

 アキコさんの舞姿に5年程前、岩波ホールで上映されたドキュメンタリー映画が二重写しのように思い出されます。
 淡いピンクの柩がお弟子さんたちの手により、霊柩車に運び込まれました。
 万雷の拍手の中、静かに霊柩車は動き出します。
 享年75歳の舞踊人生でした。
 当方も思わず手を合わせ、気持ちの中でご一緒に拍手をしておりました。

 羽田澄子監督演出の映画「そしてAKIKOは・・・ ~あるダンサーの肖像~」は日本の著名なモダンダンサーのアキコ カンダさんが死の直前まで踊り続けた姿を克明に捉えておりました。
 最期まで舞うことで、ご自身の意思を貫き通したアキコさんの生き方は観る側に勇気を与え、お見送りの拍手が全てを物語っているようにも思われ、そこにはさわやかな余韻が感じられる程でした。

 バレエダンサーが憧れる著名なバレエ作品に、傷ついた一羽の白鳥が最後まで生きる力を振り絞りながら力尽きていく様を描いた、「瀕死の白鳥」という小品がありますが、まさにオーバーラップしているようにも思われます。

 死に方は生き方であることを、今回の写真展で改めて思い起こさせていただきました。
 久しぶりに最後の舞姿にお会い出来、思わず襟を正し、背筋を伸ばして、会場を後にいたしました。