隅田川両岸の桜並木はすでに満開の様相を呈していました。
川面に映るネオンや行き交う屋形船の赤い提灯がアクセントとなり、それはどこか心躍る1枚の絵を見ているようでもありました。
夕暮れ近く、舞台と観客席に分かれた2艘の船上では、江戸時代に流行った写し絵が150年ぶりに上映され、日本の四季を代表して桜の花が大写しになると、両岸の桜並木と相まって、辺り一面桜色に染まった風景となり、何か特別な物に包まれ、その付近一帯がまるで時が止まったように感じられる程でした。
その様相に、状況こそ違えども、ふと、13年前のことが思い出されました。
それは母の葬儀を終えて、火葬場に向かう車中での出来事でした。
バスの中でご葬儀の疲れと温かい春の日差しにうとうとしていると、急に辺りが明るくなり、ホワァとした空気に包まれ、思わず何事かと眼を見開くと、窓の外は淡いピンク一色の桜のトンネルの中でした。
何かに染まったように明るく、暫し時が止まったような感覚は、満開の桜のみが持つ不思議な魅力なのでしょうか。
ご葬儀でも最近は自然志向の高まりもあり、お墓は不要とご遺骨を細かく砕き、粉末にして、樹木の下に埋葬される方も増えて参りました。
友人の新潟の友はたっての願いで樹木葬を望まれ、大好きだった桜の木の下に埋葬されることをご希望になられたとの由。
喪主になられたお兄様からお話を聞かされた友人は、当初戸惑いもありましたが、満開の桜の下でゆっくりと話し合えそうだと気持ちを切り替え、今では期待も徐々に膨らんできているとのことです。
「今年は新潟まで桜を見に行ってきます」
友人の電話口の声はどことなく弾んでいました。
今年の満開の桜は後何日愛でることが出来ますでしょうか。