今年は桜の開花宣言が例年になく早く、テレビでは早くも満開になった桜並木を大勢の人が全員マスク姿で右往左往し、とどまることなく歩いている一種異様な光景が映し出されていました。
かつてのアンダーグラウンドの芝居のファーストシーンを彷彿させるような異様な光景に、観客サイドの我々は展開するシーンがどの方向に進むのか予測が付かず、ひたすら固唾をのんで見守って行くしかないのだろうか・・・。
毎年の開花予想に一喜一憂するこの桜は日本人にとって花にまつわる思いの中でも群を抜いている様です。
以前、3月末に対応した御喪家の御葬儀にお伺いした折のことでした。
「見事な枝ぶりの桜ね。もう咲いているの。どこから持ってきたのかしら…」思わず声の方を振り返ると、中高年の女性の一団が式場入口に飾られた寒桜の花に釘付けの御様子でした。
「桜の咲く頃までもう少し待ってほしかったわ」我に返ったお1人の言葉に皆様一斉に頷いていたのを見て、思わずこちらも頷いたことが思い出されます。
そこには御葬儀担当者の計らいで故人様のイメージに合わせ、式場入口に飾られた寒桜が満開の時を迎えていました。
いつの間にか開式30分前の重苦しい空気が一新され、辺りは和やかなムード包まれ、桜を囲んで故人様との思い出にお話が弾むまでには時間は掛かりませんでした。
桜の花には不思議な魅力が宿っているようです。
私事ですが、母の葬儀の時の桜も見事でした。
葬儀・告別式を無事終え、火葬場に向かうバスの中で、御葬儀の疲れがどっと出て、思わずうとうとしていた時のことでした。
バスの中が急に明るくなり、何事かと思い、思わず目を見開くと窓の外はピンク一色です。
バスは火葬場手前にある満開の桜並木の中を走っていました。
あたたかな雰囲気に包まれて気持ちも落ち着き、思わず御葬儀の疲れも吹っ飛んだその明るさは今でも目に焼き付いています。
来年はいつものお花見ができることを祈っています。