満開の桜の思い出は・・・。

 雨にも強風にも負けず今年の関東地方の桜はまだ咲き誇っています。
 日本人の花にまつわる思い出の中でも群を抜いて、桜に勝るものは見当たらないのでは・・・とまで思わせます。
 
 花冷えに震えながらお花見の席取りに駆り出され、朝から冷たいシートに陣取っていた新入社員時代の姿も、時を経れば懐かしい思い出です。

 私も2月に亡くなった友人と都内各所の桜を見て回った思い出がよみがえります。高齢の友人の足腰が丈夫な内にと、毎年千鳥が淵から靖国神社、上野公園、新宿御苑、代々木公園、善福寺川公園、井の頭公園・・・数え上げたらきりがないほどまわりました。
 同じ満開の桜でも場所によって見事なまでに表情が変わり、その場その場にふさわしい立ち振る舞いを見せて楽しませてくれました。

 故人との思い出では4年ほど前の母の葬儀も桜の花とダブります。
 葬儀・告別式も無事終わり、火葬場入口へと向ったバスの中が一瞬にしてホワッと何かに染まったように明るくなりました。
 何事かと窓の外に目をやると、そこは満開の桜のトンネルでした。
 その時初めて今が桜の季節だと気が付き、急に胸が一杯になったことが思い出されます。

 梶井基次郎の短編小説「桜の樹の下には」でも書かれています。「桜の樹の下には屍体が埋まっている!これは信じていいことなんだよ。何故って、桜の花があんなにも見事に咲くなんて信じられないことじゃないか」