死化粧

 「最後に元気な頃のお母様に会えてよかったと大変喜んでいただけました」。
 ご葬儀が終わった後の報告の中で、心なしか担当者の方もほっとされたご様子でした。

 長患いの末ご逝去されたお母様は、当初やつれたご様子で痛々しい程でしたが、プロのメイキャップアーチストの手によりシリコンを入れ、ふっくらされた特殊メイクがほどこされると、見る見る生気を取り戻し、今にも目を開けてにっこりされるのではと思わせる程だったとのこと。

 病院でも死後処理の一環として簡単なお化粧はしていただけますが、故人様お1人お1人のご事情で、お元気な頃とは別人のようになられた方を、見慣れたお顔に戻すには、場合によってはプロのお力をお借りすることも必要です。

 以前、プロの方から普段のメイクと違い、綺麗に美しく施すのが目的ではなく、いかに生前のその方らしいメイクができるかが問題で、生前の写真を拝見し、ご家族の方からお話をお伺いして、少しでもその方にふさわしいお顔に近づけるように気を付け、それはちょうど絵画の修復作業にも似ているのではとのお話を伺ったことが思い出されます。

 少し前、100歳を迎えられた方のご葬儀では、葬儀社さんのきめ細やかな対応を、大いに感謝されたご相談者から、ご満足だったとのコメントをいただきましたが、遠慮がちに1点気になったことが記されていました。
 お歳を召された普段のお母様らしくなく、綺麗にメイクし過ぎて、落ち着かなかったと。
 最後のお別れのお顔は、特にお身内の方にとっていつまでも心に残る大切なお顔です。
 たかがメイク、されどメイクです。

 数年前の母の葬儀のことが思い出されます。
 臨終に立ち会えなかった娘に、顔色もよく普段どおりの薄化粧がほどこされた母は、今にもパッチリ目を開けそうな感じで、いつものように心配しないでと微笑んでいる様で、妙に安心したことを・・・。