「故人を語る会」で白い石を握り締めた人は、心の内を話さずにはいられない。

 今年5月、1人の舞踊家が急逝されました。
 昨年10月の公演が最後の舞台になってしまいましたが、2時間近くの独舞というハードな公演にもかかわらず、周りの人にも病気とは感じさせなかったようです。
  
 ご葬儀は本人の意向から家族・親族のみで行なわれ、夏には度々公演に使っていた小劇場で舞踊仲間の偲ぶ会が催され、半年後の11月末には「舞踊家を語る会」が関係者の間で執り行われました。
 会場は故人も度々使用された、呼びかけ人の稽古場でした。
 最後の作品のビデオが流れ、壁という壁は舞台写真や各国の舞台を共にした仲間からのメッセージで埋め尽くされていました。
 車座に並べられた座布団の中央には白い石が大小2個ほど置かれています。
 
 お会いする度に所望されていた、70年代に創った2冊の本を、奥様に手渡すことができ、長年の胸のつかえが下りた思いで、開式を待ちました。

 今日は大いに語りましょうという呼びかけ人の挨拶を皮切りに、奥様のご挨拶が続きます。
 最後の舞台を終えた直後の異変から余命3ヶ月の末期がんと宣告され、それでも闘病生活の中、次回作はと筆を執りノートに向っていらしたこと。
 
 呼びかけ人のお話が続きます。
 話す人は白い石を持って語り、次の人にバトンタッチします。
 石は次の人への魂の橋渡しの意味合いが込められています。
 ビデオを見ながら作品の思い出、アジア各地の方々とのコラボレイションetc.

 パーティー形式の食事会の後は出席者全員の語らいに移りました。
 石を握り締め絶句される方、笑いながら泣き出す方、故人との関わりが深くそれぞれのエピソードを語りながら話はつきません。
 色々な角度からのお話を伺っていると、今更ながらに彼の作品の意図が頷けます。
 
 白いお骨を彷彿させる石を持った人は一様に、心の内を話さずにはいられないようでした。