故人と桜

  「見事な枝ぶりの桜ね。もう咲いているの。どこからもってきたのかしら・・・」

 声のする方へ振り返ると中高年の女性の一団が目の前の桜に一瞬釘付けのご様子です。

  「桜の咲く頃までもう少し待ってほしかったわね・・・」ふと我に返ったようにお1人が呟きます。
 皆さん一斉に頷いていらっしゃいました。
 やがて桜を囲んで故人様との思い出にお話がはずむまでには、時間は掛かりませんでした。

 ご葬儀開式30分前の重苦しい空気が一新されたように和んでいます。
 桜には不思議な力があるようです。

 葬儀担当者の計らいで故人様のイメージに合わせて斎場入口に飾られた寒桜は、満開の時を迎えていました。

 桜の花びらを見ていると、先日、久しぶりに会った友人の口からいきなり「樹木葬」という言葉が飛び出してきて、びっくりしたことを思い出しました。

 お墓は不要と自然志向が高まり、遺骨を細かく砕いて海や山に撒く自然葬や樹木葬はマスコミ中心の話題で、一般的にはまだまだ馴染まない言葉だと思っていましたが、いつの間にかごく普通に人の口にのぼるまでになってきていたようです。

 友人は新潟の友達の訃報をその方のお兄様から知らされ、故人のたってのご希望で樹木葬にされるとのことに、はじめは驚きと戸惑いを隠しきれなかったようです。
 やがて新潟のお友達は大好きだった桜の木の下に埋葬されることになりました。

 友人はいきなりの知らせにまだ気持の整理がつかないが、満開の桜の下で友人とゆっくり語り合えそうだと気持は日に日に高まってきているとのことです。
「今年は新潟の桜見物に行ってきます」。友人の声はどことなく弾んでいました。

 開花宣言が待ち遠しい季節になってきました。