それはキリスト教葬での、お別れ場面から始まりました。
半年前の会社の検診で、癌を宣告された元モーレツサラリーマンのご葬儀までを、娘さんの映画監督が、克明に記録した「エンディングノート」は、世のお父さん方にとって、まだ記憶に新しい方も多いのではないでしょうか。
終わりが近づくことは分かっていても、お父さんの日常を一喜一憂しながら一緒に体験し、ご家族の一員になったような錯覚で、最後の火葬場に向かう車を目で追いながら、長いエンディングロールを、呆然と眺めていたことが思い出されます。
企業戦士のお父さんの特技は「段どり」と「空気を読むこと」だったそうです。
お仕事で、多くのプロジェクトを手掛けてきたお父さんは、「ご自身の最期」を最後のプロジェクトに選ばれました。
プロジェクト開始から1か月後、結婚式以来と軽口をたたきながら、奥様と最初の関門である式場の下見をされ、リーズナブルあること、家から近いこと、印象がよかったことが、この式場を選んだ理由だと説明されていました。
終始撮影者の娘さんとの距離感が絶妙で、淡々と描いているのが余計にずしりと胸に響いてきたものです。
やがて現実を受け入れざるを得ない状況の元、故郷の94歳になるお母様にケータイで≪さようなら≫を言うシーンまでも、冷静に対応されている娘さんの気丈ぶりには、この親にしてこの子ありと、ただただ感じ入ったものでした。
当初、上手に死ねるでしょうかとおっしゃっていましたが、まさにパーフェクトで、自分自身の死に対して、ひとり一人向かい合うことの大切さを、改めて教えられました。
先日、メールで難病を患っていらっしゃる方から、ご自身のご葬儀についてのご相談をいただきました。
今はまだお元気で働いていらっしゃるとのことですが、いつ、その時が訪れるかわからない状態だ、とおっしゃっています。
ご要望のお見積りをお取りしてお送りいたしましたが、お取りしたことが無駄であることを祈りながら、ふと3年前の企業戦士の「段取りが命」のお父さんのことが懐かしく思い出されました。