内々だけのご葬儀には凝縮された人生模様が詰まっていて、故人の人となりが浮き彫りになるようです。
「葬儀社のご紹介を」との電話を頂いたのは奥様のお友達からでした。
奥様は危篤状態のご主人につきっきりなので、今後のことも含めてお手伝いしているとのこと。暫く小康状態を保たれていらっしゃったのですが、1週間後急変し、帰らぬ人となってしまわれました。
ご遺骨を散骨にするため、無宗教でごく親しい方のみでお送りしたいとのことでした。
ご喪家のお名前はお聞きした奥様のお名前ではありませんでした。
葬儀社の担当者は奥様に出来るだけ沢山のご主人との写真をもってきていただき、祭壇の前に並べました。
通夜はご主人の好きだったフランク永井の曲を聞き、写真を見ながら皆さんで故人との思い出話に耽っていただいたようです。
「良いことも悪いことも包み隠さず遠慮なく思いっきりお話ししました」とふきっれたような奥様の笑顔はとても穏やかでした。
告別式の会葬者は奥様のご兄弟、友人の他はご主人の妹さんと弟さんだけでした。
ご焼香の後、妹さんより突然「別れの手紙を書いてきたので読ませてください」との申し出がありました。
「あんちゃんらしく生きた人生でしたね。父も母も早く亡くなったので2人ともあんちゃんにぶら下がっていました。何時も心の支えはあんちゃんでした。やっと本家の重圧から解放されましたね。お墓は弟が守っていきます。あんちゃんは幸せものでした。安らかに眠ってください」
複雑な人生模様をうかがわせる手紙は柩に入れられました。
「おねえさん、ありがとうございました」万感を込めた妹さんの一言は何か胸に迫るものがありました。
お花入れの儀では、柩にお花を入れながら、「生きている間に花束あげたかったわ」「でも似合わないよ」てんでに声を掛け合い、最後に皆さん一斉に「ご苦労様でした」。
泣き笑いながら柩を見送りました。
こんな葬儀も親しい方のみだからできるのですね。