東京都が平成13年に調べたアンケート調査によれば、お亡くなりになる人の場所は82%が病院です。また、家族の葬儀のための事前準備をしていない人が64%に達しています。最近の統計はありませんので、具体的数字はありませんが、事前準備をする人が増えてきている傾向にはあると思います。ただ、それでも、事前に準備をしていない場合、現実的に病院指定の葬儀社を利用するかどうかが葬儀社の選択を考える大きなウエイトを占めるということになります。そのときになって、あわただしく自らが探すか、親戚や知人などから葬儀社を紹介されないと、病院の葬儀社に依頼せざるを得ないようになることも多いようです。
実は、病院指定の葬儀社というのは、搬送契約を結んでいる葬儀社のことです。搬送というのは病院から自宅などへ遺体を運ぶことです。遺体を長く病院におくわけにはいかない(おきたくない)病院と、仕事を取りたい葬儀社の利害が一致して、病院から自宅などへの搬送契約を結んでいます。
ところが、病院指定の葬儀社はどこでもなれるわけではないのです。いろいろ条件があるわけです。例えば、早く病院から連れ出して欲しいわけですので、病院近くに営業所があり、○○分以内に二人で迎えにこられることなど、いろいろな条件があるわけです。
葬儀社側にすれば、営業所が近くになければ場所を確保しなければなりませんし、人も待機させておかないといけないわけですから当然コストもかかることになります。
公立の病院などは、条件を満たした業者の中から抽選をしたりしていますが、私立の病院は、諸条件に加え何らかの理由でもって葬儀社が決まります。「指定業者の中には、病院に対し年間1000万円超、かつ、1遺体あたり数万円の金銭を提供しているものがあった」と公正取引委員会が「葬儀サービスの取引実態に関する調査報告書」(2005年7月)の中で指摘していますが、そうしたことがあることは否定できません。
いずれにしろ、病院指定の葬儀社になるためにはコストがかかる場合があるわけです。こうしたコスト構造が背景にあるため、搬送契約でありながら、強引に葬儀まで結び付けようとする営業になっているのです。
これに対し、公正取引委員会の前掲の報告書の中で、「遺体搬送サービスと併せて、その後の葬儀サービスについても、当該遺体を霊安室に引き留め、説得するなどして、自己との取引を強制的に促すといった事例がみられた。こうした行為は消費者の自主的なサービス選択の自由を侵害し、不公正な取引方法(抱き合わせ販売等)として独占禁止法上問題となる恐れもあることから、事業者はこうした行為を行わないようにすべきである」と注意しています。要するに、搬送する立場を利用して強引に葬儀の営業をするな、ということです。
もちろん、病院指定の葬儀社が悪い業者と言ってるのではありません。葬儀に関する情報がオープンになってきて、事前準備する人も徐々に多くなってきておりますので、病院指定の葬儀社に依頼する傾向は減少してきているようです。葬儀社もかつてのように何が何でも病院の指定になる、ということではなくて、直接、消費者に支持されるような活動や情報公開をしている葬儀社も増えてきております。消費者からすると非常にいい傾向です。