「生と死は紙一重ですわ。死と直面しているのが生。ですから天地に恥じない生を送らなくてはならないでしょう」
交通事故で九死に一生を得て、右手右足が不自由な明道尼のお言葉に思わず居住まいを正したのは10年以上も前のことです。
その明道尼の作る精進料理は「吉兆」創業者の湯木貞一氏に「天下一」と折り紙を付けられたそうです。
湯気がもうもうと立ちこめる大津市の月心寺の勝手場で陣頭指揮を取る明道尼は「生きとし生けるもの皆が御仏だから、月心寺へお越しくださる御仏の皆さんに精進料理を作ることが、助けられた私の修行」と話されていました。
勝手場は味加減、具を入れるタイミング、火加減と明道尼の号令の元、料理人全員の素早い動きと張り詰めた空気で丁度修行道場のような趣です。
出された料理は味付けもさる事ながら、どれもが大ぶりで盛り沢山に盛られ、素材が生き生きとして、まるで命が宿っているかのようにも感ぜられました。
「調理する者の心と料理を口にする者の心が一つの喜びとなった時、素材の野菜も成仏するにちがいないと思います」とおっしゃっていたことが今でも思い出されます。