死に際の「オフィーリア」を観る不思議・・・・。

 黒山の人の列は先ほどから止まったままで皆さん1点を凝視しています。
 その視線の先には今まさに川面から沈んで行こうとしている少女がいます。
 でも助けようとしている人は誰もいません。
 助けるどころか皆さん腕を組み息を殺して見入っています。
 少女の名は「オフィーリア」。そうです、かの有名なイギリスの劇作家シェイクスピアのハムレットに出てくる悲劇のヒロインです。
 オフィーリアの命が亡くなる寸前を描いたのはイギリスを代表する画家、ジョン・エヴァレット・ミレイ。その回顧展が渋谷にありますBUNKAMURA・ザ・ミュージアムで開催中でしたので覗いてみました。
 最初にこの少女に出会ったのは20年ほど前の友人のスクラップ帳の中でした。
 スクラップされていた朝日新聞の絵画紹介記事の中でも鮮やかと緻密な描写力が群を抜いて観ていると画面に吸い込まれそうな錯覚をおこさせるほどでした。

 写真以上にリアルに描かれたうつろな表情の少女と両岸の植物の鮮やかさが異様なコントラストを見せ臨場感漂わせ、物語をさらに能弁に語らせているようでした。
 花環を小川の柳の垂れ下がった枝に掛けようとした時、枝が折れ花環もろとも川の中へ。すでに狂気の世界に心奪われていた少女にとってこの瞬間に何を思ったのだろうか。
 王妃ガートルードが語る死の場面
 「裳裾が広く広がって丁度人魚のようになって、しばらくは水面に浮かせておりました。やがて衣裳は水を含んで重くなり、楽しく歌うあのかわいそうなお人を川底の死の泥の中へ引きずり込んでしまいました」。(大山俊一訳)
 
 少女はすでに小川という柩の中に収まっているようにも感じられ、小川に浮かんでいるお花は、柩の中に手向けられた最後のお花のようにも見られます。
 黒山の人垣の後ろから、おもわずそっと手を合わせていました。