桜とお葬式

 今年も3月18日、東京の桜開花予想が発表されました。
 このところ、初夏を思わせるような陽気に桜も少々焦り気味で一気に蕾をつけたのでしょうか。
 それでも来週は寒の戻りがあり、開花はゆっくりとのことなので、あちこちお花見のはしごもできそうです。
 開花予想までして待ち焦がれる花は他には見当たりません。
 それだけに各人それぞれの思いが淡い桜色の中にしみ込んでいるようにも思われます。
 
 私事で恐縮ですが、昨年3回忌を済ませた母の葬儀の日のことです。
 雲ひとつ無い穏やかな春の日差しの中、葬儀・告別式が無事滞りなく終りました。
 火葬場へと向うバスの車中がいきなりフワッとした空気に包まれたのは、それからまもなくでした。
 何事かとあわてて窓の外を見ると、辺りは淡いピンク色一色です。
 一瞬、事態が飲み込めませんでした。
 どなたかの「あっ、桜だ」の声で我に返り、急に身体中が温かく感じられ、胸がいっぱいになったのが、昨日のように思い出されます。
 火葬場入口から玄関先までの満開の桜並木は、母の門出を迎えていただける希望のトンネルのようにも思われ、心の片隅でほっと安堵いたしました。
 
 桜の季節は巡ってきますが、あの日に観た桜は母の思い出と重なり、今でも特別な桜のように感じられます。