最近の無宗教葬 その3  グラスでカンパイのお別れ

 目の前の柩がなければパーティ会場と間違えてしまいそうな雰囲気の告別式に立ち会いました。
 故人は彫刻家。会葬者は全員故人と縁の深い方々50名余り。会場は寺院の会館ですが多目的ホールとして使われ、あまり宗教臭さのないところでした。
 立食のパーティ会場前方には白い薔薇の花に囲まれた柩と故人の作品のパネル写真が飾られていました。
 受付を済ませた会葬者は式場壁際のイスにて、式の始まるのをお待ちいただくことになりました。手前の二つの大きなテーブルにはご喪家の手作りのオードブルを初めとする料理がグラスやワインと共に並べられています。
 後の式内容は自分達で決めたいというご喪家のご要望でしたので、葬儀社の担当者は黒子に徹して色々と気を使ったようです。
 年配の会葬者の為に駅近く交通の便がよい、音楽をかけても大丈夫な式場を、しかも1日だけのお別れ会なので半額にするという格安の式場を捜してきました。
 会葬者は1本の白薔薇をお1人ずつ柩に入れ献花としました。入れ終った方々はワイン、ビールを片手にお料理を頂きます。
 献花が終ったところで喪主の奥様よりご挨拶、友人代表のご挨拶と続きました。その間もお友達同士久しぶりの旧交を温め、お互いの話しが弾んで、柩の故人も話しに加わったらと思われるほどでした。マイクが手に渡ると皆さん次々思い出話に花が咲き、それでも最後の方になると「何百回も会い別れているのに、1度たりともさよならを言ったことがない。じゃあ、またね」と涙で絶句。
 ご喪家を代表して息子さんがグラスを上げ「父の旅立ちに先立ちましてカンパイ」。
 最後のお別れ花は柩の周りの白薔薇を皆さんで手向けました。
 その間、テーブルのグラスやお料理はご喪家の手で手際よく片付けられ、柩の通る道が開けられました。お料理の残りはラップされ、食べ残しはビニール袋へといつものパーティのように手の空いている方があうんの呼吸で手伝っていらっしゃったのが印象的で、ご自分達の手でやっているという実感が感じられました。

 いよいよ出棺です。式の間ずっと流れていたカザルスの曲が一段と大きくなりました。