死別の悲しみのプロセス

 「センターの存在意義は、よき葬儀社選びのサポートを通して、葬儀を前に頭に浮かんでくる様々な不安を取り除き心を落ち着けてもらうことです。」とホームページの一番先に書いているように、われわれの守備範囲は、死別に関わるごく短い期間にすぎません。

 ご遺族にしてみれば、葬儀の慌ただしさの後に、死という厳粛な現実を前にして、本当に辛い時間が訪れるものと思われます。

 臨床心理学者のキャサリン・M・サンダースは、死別に関する調査をしていくうち、死別の悲しみのプロセスに5つの段階があることを発見したといいます。
1、ショック
2、喪失の認識
3、引きこもり
4、癒し
5、再生
(もちろん、これらの段階ははっきりとした境界をもっているわけでも、固定的なわけではないと断っています)

 いずれにしても、絆が強ければ強いほど悲しみは大きくなり、悲しみを乗り越えるのに(乗り越えるという表現を嫌う人もいますが)困難がつきまといます。

 そこで、これらの段階をうまく歩むようにサポートするグリーフ(悲嘆)ケアの大切さが言われることになります。

 最近では、少数ながら、グリーフケアについて勉強会をしたりして、それをご遺族との対応に生かそうとする葬儀社も出てきています。

 私自身は、葬儀のやり方そのものによっても、悲しみの時期を必要以上に長引かせたりすることがあるのではないかと思っています。そうならないために、伝統的な儀礼のされ方のなかに、示唆を与えてくれる何か大いなる知恵があるような気がしています。

人生いろいろ別れもいろいろ

 
 内々だけのご葬儀には凝縮された人生模様が詰まっていて、故人の人となりが浮き彫りになるようです。

「葬儀社のご紹介を」との電話を頂いたのは奥様のお友達からでした。
 奥様は危篤状態のご主人につきっきりなので、今後のことも含めてお手伝いしているとのこと。暫く小康状態を保たれていらっしゃったのですが、1週間後急変し、帰らぬ人となってしまわれました。
 ご遺骨を散骨にするため、無宗教でごく親しい方のみでお送りしたいとのことでした。
 ご喪家のお名前はお聞きした奥様のお名前ではありませんでした。
 葬儀社の担当者は奥様に出来るだけ沢山のご主人との写真をもってきていただき、祭壇の前に並べました。
 通夜はご主人の好きだったフランク永井の曲を聞き、写真を見ながら皆さんで故人との思い出話に耽っていただいたようです。
 「良いことも悪いことも包み隠さず遠慮なく思いっきりお話ししました」とふきっれたような奥様の笑顔はとても穏やかでした。
 告別式の会葬者は奥様のご兄弟、友人の他はご主人の妹さんと弟さんだけでした。
 ご焼香の後、妹さんより突然「別れの手紙を書いてきたので読ませてください」との申し出がありました。
 「あんちゃんらしく生きた人生でしたね。父も母も早く亡くなったので2人ともあんちゃんにぶら下がっていました。何時も心の支えはあんちゃんでした。やっと本家の重圧から解放されましたね。お墓は弟が守っていきます。あんちゃんは幸せものでした。安らかに眠ってください」
 複雑な人生模様をうかがわせる手紙は柩に入れられました。
 「おねえさん、ありがとうございました」万感を込めた妹さんの一言は何か胸に迫るものがありました。
 お花入れの儀では、柩にお花を入れながら、「生きている間に花束あげたかったわ」「でも似合わないよ」てんでに声を掛け合い、最後に皆さん一斉に「ご苦労様でした」。
 泣き笑いながら柩を見送りました。
 こんな葬儀も親しい方のみだからできるのですね。
 
 
 

最後のお別れの儀は葬儀担当者の腕の見せ所でもあります

 葬儀・告別式が終り、いよいよ最後の時がやって参ります。
 お別れの儀とかお花入れの儀と呼ばれ、会葬者にはその準備の為に一旦退場していただき、ドアが閉められ、ロビーや控室でお待ちいただくことになります。
 通常は舞台裏ですのでお客様にはお見せしない葬儀社が多いのですが、逆にお見せしてアットホームなフンイキを創りあげてしまう担当者に出会いました。
 それまでの読経に始まり、ご焼香という緊張した儀式からいっきにざっくばらんな流れに持っていく。そのギャップに初めは少々戸惑いを覚えましたが、改めて伺ってみますと、あーこういうやり方もあるのだと実感いたしました。
 
 まだ葬儀関係者が祭壇の花をむしっている最中ですが、サッサと式場のドアを開けご家族・ご親族を招きいれ、「お花、ドンドン入れてやってください」とラフに呼びかけます。
 その声にお身内の方達はハッと我に返り、今までの鯱張っていた気持からいっきに目前の出来事に引き戻されるように故人に集中するようです。
 ラフな担当者の姿勢は何回伺っても変わらず、大きな儀礼的な葬儀であればあるほどコントラストがつき、このフンイキが生きてくるようです。
 少々乱暴な言い方になりますが、芝居でいうと3幕で転調し、いっきに最終場面にもっていく感じに似ているようにも思われました。
 その場の空気を自在に読み取り、緩急をうまく心得ているベテラン担当者ではのやり方の一つだとは思いますが・・・。