遠くて近くは菩提寺との仲

 「メールでは東京で葬儀をすることを前提にお伺いしていましたが、こちらで火葬のみにして青森にある菩提寺で葬儀をしたいのですが・・・」
 電話口の依頼者は、少し申し訳なさそうな様子です。
 かつては菩提寺のご住職が中心になって葬儀を取り仕切っていました。
 時代の変化とともに現在では表向き、葬儀社の担当者が黒子になり、ご喪家を支える形に変わってきましたが、菩提寺の存在はそのままです。
 菩提寺の墓に埋葬するには、ご住職の機嫌をそこねるわけにはいきません。
 お亡くなりになったら、まずは菩提寺に一報を入れ、指示を仰ぎます。それを最優先にして物事を決めないと後で物議を醸す原因にもなりかねません。
 
 遠方の場合でも同じですが、菩提寺からわざわざ駆けつけていただけるとは限りません。
 ご喪家からこちらで火葬にして菩提寺で葬儀を希望されても、前もって菩提寺の承認が必要です。時にご遺体ごと戻って全て菩提寺でやってくださいと言われることもあるようです。
 火葬のみの場合も火葬場内の読経は少しの時間ですが、これも菩提寺に了解を取る必要 があります。なかには、菩提寺さんのご紹介の方でということもありますので。
 
 また、すでに担当者と打合せ済みでも、「こういうことになりますが、如何ですか」とお伺いをたてることも大切です。
 担当者が「菩提寺の方には丁寧にご連絡しておいてください」と申し上げて式場確保に出た後、若い依頼者がファックスで菩提寺に連絡した為、ご住職の逆鱗ふれたことがあったそうです。
 ご住職にしてみれば、お亡くなりになればすぐ相談にご遺族が出向くのが当然と思っていたのに、ご喪家で勝手に葬儀社を決められ、なおざりにされしかも亡くなられたことをファックスで送られたことにショックが大きかったようです。
 ご親族が集まる枕経の席で葬儀の出席拒否までこじれ、一時はどうなることかと周りをはらはらさせましたが、ベテラン担当者の配慮により、無事執り行うことができました。

 
 

先ずは菩提寺さんにお伺いを立てましょう

 菩提寺をお持ちの方は病院からご遺体を搬送後、先ず始め菩提寺にお知らせし、ご住職から指示を仰ぐ。
 建前的にはそのような形をとることが望ましいが、現実その時点ですでにご喪家は葬儀社を決めていることの方が多い。
 自宅で葬儀をする方が大半の頃は、まずはご住職に伺いを立て、地元地域の古参が陣頭指揮をして、葬儀社の担当者は黒子に徹しているように見受けられました。
 
 しかし、昨今都会を中心に斎場でのセレモニー型が大方を占めるようになると、ご喪家の意向を汲みとって式進行をする葬儀社の担当者の役割が格段に大きくなってきています。
 突然のように訪れるご不幸に、何から手をつけてよいのか途方にくれてしまうのが現状で、頼みの綱は葬儀社の担当者です。気心の合った担当者にめぐり合え、気持も落着いて式に臨むことができると安心した矢先に、思わぬところから待ったが掛けられることがあります。
 
「菩提寺さん」です。
 菩提寺の中には葬儀社を指定してくる方がいらっしゃいます。
 菩提寺との普段の付き合いも薄いので、戸惑われる方も多いと思いますが、ご住職から断固として決められると、すでにご喪家が決めた葬儀社も撤退せざるを得ません。
 葬儀社の担当者も「これからずっとお付き合いするご喪家にとってそれがベターだと思いますから」と、菩提寺がある場合は必ず確認をするとのことでした。
 菩提寺とのトラブルは最も避けたい問題ですので、「ご喪家から菩提寺を聞いたら先ずはご挨拶に伺うようにしています」とは葬儀社の担当者の弁でした。
 このようなケースは特に菩提寺を借りてやる場合に多いようです。

 

菩提寺様の言い分とは・・・

 「まず始めに菩提寺に丁寧に連絡してくださいと申し上げたのに、若い喪主さんはこともあろうにFAXで連絡を入れてしまった。事の発端はここから始まったの」葬儀社のベテラン担当者から菩提寺との攻防戦の顛末を聞かされました。

 FAXで初めて事の次第を知った菩提寺のご住職はへそを曲げてしまわれた様です。かってのお寺は地域の中心的役割をして、地域の葬儀を取り仕切っていたので、万が一の時はご遺族がすぐ菩提寺に出向くのが当然と思っていらっしゃる。
 ご住職にとってご喪家の方は何事も先ずは菩提寺にお伺いをたててからと思っていらしたのに、勝手に葬儀社を決めたことにまずはむくれてしまったようです。
 まくら経の日、葬儀社の担当者もご挨拶に伺った。案の定、ご住職はご機嫌斜め。
 まくら経を終えるや否や、開口一番「葬儀屋は俺の知り合いでなければ」と散々叱られ、お母様は泣き出す始末。
 「お経を途中で終らせてはいけないので降ろさせていただきます」と申し上げると、見積書を見せろとおっしゃる。見積書を見るや否や今度は「俺はこんな安い仕事は出来ない」とご親族が居並ぶ前で怒鳴りだす。
 「その前にお前の葬儀社なんかぶっ潰れてしまえ」とまで悪態をつく始末。 
 ついにご親戚のおじ様たちもおかんむり。間に入った喪主のご子息も途方にくれるばかり。
 お布施も地域の相場は東京よりも高め。ところがこちらのお宅は引っ越したばかりでご主人が亡くなり大変そうなので少し低く見積った。
 ついに「こんな安くては明日の告別式は行かないぞ」とまでエスカレート。
 内心「こんな坊さんがいらっしゃるから、檀家離れが起きてしまうんだ」と思いましたよ。
 
 「ところであんたはどんな葬儀屋さんだ」というので、説明すると、今度は一転してご住職の方から身の上話を始められた。息を詰めて事の成り行きを見守っていたご親族はあっけに取られている様子。
 ついには「俺も安い葬儀があったらそちらに回すか」とまでになり、「帰りは会社まで送っていくから」とおっしゃる。一旦は丁重にお断りしたが結局仲直りのためにも同乗させていただいたとのことでした。
 

菩提寺との関係は?

 電話で依頼者の最もご要望に沿った葬儀社を紹介するにあたり、色々ご質問をさせていただいています。
 なかでも概算見積りをとる時、仏式の場合には菩提寺の有無を必ず伺います。
 
 菩提寺がない場合は通夜、葬儀告別式、繰上げ初七日の法要までの読経をどうするかで済みますが、菩提寺のある場合は先ず第一に菩提寺にお伺いをたてます。今まで疎遠だった菩提寺とも今後あれやこれやと長いお付き合いが始まります。

 火葬にして故郷の菩提寺でご葬儀とご喪家が思っていても、菩提寺からご遺体を運んで故郷で葬儀をしてほしいと言う場合もあるようです。
 また、菩提寺が遠方で来れない場合でも、ネットワークで菩提寺よりの紹介ということもありますので、事はそれからとなります。

 直接伺えないのでそちらでどうぞということになり、始めて葬儀社もお坊さんの手配が始まります。
 この場合は通常、戒名無しの俗名になります。お布施代は通夜から繰上げ初七日法要までの2日間の読経代と思って頂いて良いようです。49日の納骨の時、戒名は菩提寺にてつけられます。
 

菩提寺を利用せず、桐ヶ谷斎場であえて葬儀をした事例

 桐ヶ谷斎場の雪の間を使用の一般葬(会葬者通夜150名、告別式60名)に立ち会いました。

 依頼者から電話連絡があったのは事後でした。故人は依頼者のお母様。依頼者の要望で葬儀社側には搬送のみの場合もありうることを連絡し、とりあえずご自宅に搬送してもらいました。先方はインターネットで当方が連絡した葬儀社をチエックし、担当者と話し合い、決められました。

 桐ヶ谷斎場はご喪家の要望です。菩提寺は式場を所有し、かなり格式があり、お寺サイドで執り行われると、高くつきそうなので、ご喪家側としてはまず式場を菩提寺と切り離し、葬儀社も菩提寺の紹介ではなく、ご自分たちで決めたかったようです。

 葬儀社の担当者もそのあたりのことを考慮し、菩提寺サイドとの打ち合わせに気を使ったと言います。「今回はお寺さんのご要望にのっとって、きちんとやることを心がけます」と菩提寺とご葬家、双方への気配りの程を見せていました。

 菩提寺からはご住職はじめ3人程いらっしゃって、戒名からも格式が高い葬儀でしたが、依頼者は施行の一連の流れをよく研究されていたようでした。

 読経が始まって10分後、家族親族の前に、一般会葬者のご焼香が始まり、ご焼香を済ませた会葬者は出棺までのあいだロビーでお待ちいただくことになりました。30分近く待つことになりましたが、故人との最後は親族に続き一般会葬者の方々もお別れに参加されました。最後の別れは喪家サイドのご意向に左右されますが、できれば会葬者全員でしてあげられたらと思います。

 故人のご兄弟からは分骨容器の用意と、少しお骨の欠片をとの希望がありました。

※桐ヶ谷斎場の斎場案内は、桐ヶ谷斎場のページになります。